CL決勝 リヴァプールvsミラン

 2年前のCL決勝で両者が相対した際には、3点リードのミランが圧倒的優位に立ったかと思いきや、数分間でリヴァプールが追いつくという、『キャプテン翼』か『シュート』でしかありえないような劇的な展開となった。とはいえ、「両校優勝」あるいは「おててつないでゴールイン」といったお子様的解決が大人の世界にあるわけもなく、一片の情が入る隙もないPK戦によって非情にもリヴァプールに軍配が上がることになった。あれから僅か2年。
 結果からいえば、うじきつよしが期待したような2年前の再現とは程遠い現実主義的なゲームが展開され、ゲームの機微を抜け目ない2ゴールという形で穿ったミランインザーギによって帰趨は決した。リヴァプールもカイトがCKから1点を返し、意地を見せたものの、ミランのそつない時間消化術によってミラクルへの期待は徐々に萎み、試合終了のホイッスルが僅かに残った可能性を粉々に破砕した。
 ゲーム自体はリヴァプールが支配した。大方の予想を裏切り、カイトの1トップを選択したベニテスは、センターにジェラード、サイドにゼンデン、ペナントを配し、中盤の底にシャビ・アロンソマスチェラーノという2人の門番を置いた。史上屈指のディフェンシヴFWという形容矛盾を代名詞とするカイトを始め、前線でハードワークを厭わない人材を並べたリヴァプールの狙いは、とにかく中盤を制することにあった。高い位置でボールを奪って、即座に展開。的を絞らせてしまうとマンUのようにショートカウンターの無限連鎖の餌食となることは必定。リヴァプールは奪うと即座に逆サイドへ展開、というパターン化された攻撃を何度も繰り返していた(練習でも繰り返しやっていたそうな)。もっとも、奪ってからの速さと逆サイドへの展開を徹底するリヴァプールではあるが、相手のDFラインは完全に引いたままであるし、何よりもシャビ・アロンソマスチェラーノはカカその他のチェックを継続的に行っていたため、攻撃に参加するまでに時間がかかる。従ってリヴァプールは、最前線のカイト、そしてその下のジェラードと片方のサイドの選手という実質3人で的を絞らせない速い攻めを実現せねばならなかった。
 しかし不幸なことに、その少ない手駒のうちの3番目のピースとなる両サイドの選手、ゼンデン、ペナントが不調。そのため、ミランの中盤を前線に向かせないという守備面での目的はほぼ完璧に達成できたものの、攻撃はほぼジェラード頼みという効率の悪さは否めず、決定的な場面は殆ど作れなかった。もっとも、攻撃面でのベニテスの狙いは相手を崩すというより相手の自滅をひたすら待つもので、むしろ守備の観点から、中盤を支配することでカカのポジションを下げさせ、ミランの攻撃のスタート地点を低い位置に持ってこさせることで、ミランを精神的に揺さぶり、ミスを誘発し、攻撃に繋げるというところにあっただろうと推察される。実際のところ、この目的はほとんど達成され、セードルフは前線に絡めず、カカも低い位置まで戻ってボールを受けざるを得ないため、攻撃の際には長い距離を走ることを余儀なくされた。このままの状態が続けば、攻撃がうまくいかないものの最終的に勝っていたのはリヴァプールだっただろうと思われる。
 しかし前半終了まで残り僅かの時間帯、ピルロの壁の間を狙ったFKがインザーギの肩(?)に当たり、コースの変わったボールにレイナは反応できず、リヴァプールは失点してしまう。偶然とはいえ、この失点がリヴァプールにとって全てだった。これまでの展開からいえば、手詰まり感が漂い、先に動かなければならないのはミランの方だった。しかし、この失点によりうまくいっていたはずのリヴァプールの方が動かざるをえなくなった。往々にして、膠着した試合に流れをもたらすのは、セットプレイである。
 動かざるを得なくなったリヴァプール。しかし、なかなか動けない。動くことでバランスが犠牲になる。ミランは、リヴァプールに動けと迫るかのように、カカ、インザーギを前線に残して完全なカテナチオ状態。リヴァプールが動いてバランスを崩すのをひたすら待つ。ベニテスが動く。しかし、ベニテスは故障明けキューウェルをゼンデンに代えて投入し、バランスを崩すことを依然拒絶する。状況は変わらない。決定機は訪れない。残り10分少々、とうとうベニテスが決断する。マスチェラーノに代えてクラウチ。ここでベニテスは2トップに変更、中盤のバランスを犠牲にした。しかしこのベニテス一世一代の決断に応えたのは、リヴァプールの攻撃陣ではなく、流れが変わる瞬間をひたすら画面の端っこで待ち続けていたカカ、インザーギだった。カウンターからカカが3人のDFを引きつけ、DFラインぎりぎりを並行にトレースするインザーギが飛び出すタイミングを計り、スルーパス。あとはインザーギがレイナの隙を窺って確実に決めるのみ。ここまで。CKからカイトが今季初ゴールを叩き込み意地を見せるも、あとはインザーギが痛がったり、カカがライン際でキープしたり、中盤でパス回しをしたり、各々自由に時間を消化するのみ。勝負を分けたのは、セットプレーの場面での壁の対応とほんの少しの運だった。カカをほとんど完封していたリヴァプール守備陣、そして何度も崩されそうになりながらそのたびごとに修正して堅固さを増して行ったミラン守備陣、それからカカやシャビ・アロンソの個人技、と全体的には停滞したゲームでも、たくさん見所のある試合だったように感じる。それにしても、ゲーム開始前の出し物はなんだったんだろう。なにがしたいのかよくわからなかった。