死神の精度

死神の精度 (文春文庫)

死神の精度 (文春文庫)

 予定日までの8日間、人間を観察しては死地に送ってもよいかどうか判断を下す死神をめぐる連作短編集。といっても某国の法務大臣ではない。初めから構想ができあがっていたのか、それとも後から辻褄をあわせたのか、床屋に始まり床屋に終わる。音楽鑑賞を唯一の趣味とする死神が、音楽の才能を秘めた女にだけ死の判定を下さない、というあたりに作家の嗜好が反映されている。『オーデュボン』しかり。年月を経て同じ人物が再登場したり、『重力ピエロ』の春がさりげなく再登場したりというのはいつものパターン。ひとりの古風なヤクザが敵対関係にあるヤクザの事務所に殴りこみにいくまでを語る「死神と藤田」と、常連ではない客を無作為に連れてくるよう死神に頼む床屋の老女の話「死神対老女」がよかった。まるで『かまいたちの夜』のように、吹雪の中弧絶したペンションの中で起こる殺人事件の謎を死神が解明していく「吹雪に死神」は異色。人の生死に興味のない死神が、死因や動機を探るというのはちょっと難があるかも。苦労した感じ。