ユトリロ、酒、遊歩

 昼から遠征、ユトリロ展。
 画家であった母にほったらかしにされ、孤独とアルコール依存の極みに、ユトリロは独学で絵を描き始める。やがて作品は売れ始める。初めは継父が、やがて妻がマネージャーとなり、ユトリロはほぼ自宅に幽閉されたまま、赤ワイン片手に絵葉書に描かれた風景を再-表象し続ける。孤独と愉悦の間を静かに揺れるユトリロの生活史に沿って、大小問わず佳作を並べた巡回展。
 ほとんど予備知識がないのだが、売れ始めたせいか色彩に富んで鮮やかな画風になる前のどんより沈んだ「白の時代」の作品群に、ユトリロの強烈な個性を垣間見た気がした。異常なまでに灰色がかった作風。灰色の空は、ことごとく冬を連想させる。単なる背景であることをやめた灰色の空の中に、町が飲み込まれていくかのよう。建物は何重にも灰色で塗り固められている。
 ユトリロは漆喰にこだわりがあったようだ。実際に漆喰を使ってもいるとも聞く。漆喰を使って風景を描く。町並みは灰色の中で輪郭を保つ。やがて、何度も塗り固められた灰色の常軌を逸した濃度に町は輪郭を失い始める。白い寺院は漆喰の空に溶ける。建物は直立しながら、重ねられた灰色がかった白の筆致に土台から揺れる。漆喰を使って描かれた風景は、漆喰の中に塗り固められる。なぜかポーの「黒猫」を思い出した。アルコール依存、漆喰、そして死体・・・。よもや、ユトリロの漆喰調の絵画に、死体が塗り込まれているなんてことはない、と思うが。

 夜は悪友たちと新鮮な魚を囲んで酒を交わす。悪酔いの挙句、クラブと勘違いして妙な踊りを披露し始める誰かさんを引きずって散会。そのまま嘔吐する友人をタクシーで送り届けてはみたものの、そこで朝まで過ごすのもなんだか暇なので駅まで歩くことに。歩くこと2時間。都会なのに車が時々通る程度で、歩行者は皆無。妙な静けさのなかに、いろいろ発見があって面白かった。15キロぐらい歩いたところで到着。牛丼屋で胃袋を満たし、始発に乗って帰宅。