私は、信頼に報いなければならぬ。いまはただその一事だ。

 遡ること数日前。
 閉店間際に駆け込みで買い物。慌てて商品をかごに放り込み、どたばたとレジへ一直線。なんとかまにあったと、胸を撫で下ろしながら、お会計。が、財布を手繰るものの、なんと中身が空っぽ。一転、胸は早鐘を打ち始める。財布を忘れたサザエさんよりは・・・、とかいう妙な矜持を飲み込み、明らかに年下の店員さんに謝り続けること1分、一時帰宅許可を頂く。重力にためらいなく屈しようとする両足を叱りつけ、山を越え谷を超え、猛ダッシュで我が家に生還。紙幣をポケットにえいやとしまい、一心不乱約束どおり折り返す。木っ端微塵に橋桁を跳ね飛ばす濁流にも、棍棒を振り上げる山賊にも屈せず、無事にセリヌンティウス、ではなく鶏ささみ入りのもの言わぬビニール袋のもとへ。約束どおり帰ってきたぞ、邪知暴虐の王ディオニス、ではなく店員さん。それから、大したドラマもなく、淡々とお会計。財布ではなく、財布の中身が肝心なのです。