エィガ批評

 寒かった。暖房は雪が降るまで我慢。キーボードの前に腰掛けていると、だんだん冷たくなっていく。コタツに逃げたら、負け。一日が終わる。

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 2月の中旬は、教室の隅っこで小旗を振りながら、ありがたいお話を拝聴することにしよう。ああ、でもあそこは此処よりはるかに寒そうなので、考えただけでちょっと気分が滅入る。腰が痛い。けれど、万難を排し、こっそり参加する。「誰?」扱いされること必至。

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 断煙の禁断症状も緩和した。少しずつ頭も動くようになってきた。「飲んだから書いた」みたいなことになってしまっているけど、読んだものについてもこっそりちょこちょこ書くことにしよう。まずはカルイものから。
 
 
 

江頭2:50のエィガ批評宣言

江頭2:50のエィガ批評宣言

 「1クールのレギュラーよりも1回の伝説」を合言葉に、すっかりテレビ界の核廃棄物としてのイメージが定着した観のある江頭2:50。もっぱら体を張った過激な芸風と奇妙奇天烈なアクションで、同系のエスパー伊東との差別化を図りつつ、トークでは無茶振りされてしどろもどろになってひと笑いとった挙句最後に暴れるという、ただでは転ばぬしたたかさも併せ持った特異な芸人である。だが、誰も望まなかったせいか、不幸なことに、そのインテリジェンスはベールに包まれてきた。本書を読んで納得。馬鹿に芸人は務まらない。
 物心ついた頃から映画に親しみ、膨大な数の映画を鑑賞してきたという江頭の前史にまず驚嘆する。ビンボー生活の中でも、なんとかやりくりして、遠く離れた映画館にコツコツ通う幼年時代の逸話は、情感豊かで温かい。長い時間をかけて、江頭の映画観は培われてきた。
 もちろんこの男、ただ映画を観て、「ああ、楽しかった」で終わる男ではない。俳優の名前や監督の名前、それから受賞歴を連呼するだけのミーハーな映画ファンではもちろんない。なんといっても江頭は、物語の勘所を掴んで離さない。『ゴッド・ファーザー2』のドン・チッチオが刺されるシーンに、「復讐」・「家族の絆」・「(最終手段としての)暴力」が凝縮されていると喝破する手際など実に説得的で鮮やか。もちろん、褒めるときだけではなく、(本書の大部分を占める)批判のときもしっかり根拠を示して読者を説得する。改善の方途を示し、その映画のポテンシャルを余すことなく引き出す。だから、どんなに貶されている映画でも、なんとなく観たくなってくるからあら不思議。個人的には『パフューム』を観てみたい。
 前半で最近の映画評を並べて、中盤に自分史やジャンル論を挟み、終盤に「生涯映画ランキングベスト25」で畳み掛ける。マニアックすぎず、古今東西ハリウッド以外にも目配りした選出は、なるほど、と唸らせる。たまにギャグがすべるが、そこは無慈悲に流す。

 

 昔『浅ヤン』の「江頭は何者なのか?」って企画で、筑波大学付属病院の精神病棟に行ったんだよ。はじめ、そこにいた患者さんは、独り言を高速でブツブツ言ってたり、怯えたりしてたんだけど、オレがテンション上がって「キエーッ」とか「オョョョッ!」とか言いながら病棟を歩くと、みんなスッと普通になっちゃうんだよ!
―――やりすぎですよ。
 小田晋教授が言ってたんだけど、人間って、ボケとツッコミの関係を維持しようとするんだって。だから、オレみたいな強烈なキャラクターが現われると、患者さんは無意識のうちに、「ちゃんとしなきゃ」って思うらしいんだよ。

マジかよ。

[追記] そういえば巻末には「エガちゃんシール」が付録としてついてくる。これだけでも買う価値ありとみた。