玲瓏
「リア王」の誕生日に50年ものの墨を贈る。書を嗜むわけではないので、よくわからないまま、店員に薦められるまま。現在、東の方で2ヶ月に渡る接待を受けている最中らしいが、いろいろめんどくさいので西の方に自宅があることを忘れないでいてほしい。
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「プロフェッショナル」で羽生善治の回のアンコール放送。
思考の回転力で勝負していた最初の10年に、獲れるタイトルはほぼ獲り尽くして、前人未到の領域に踏み入る羽生。そこで彼を襲ったのは不安や惑い。どれほど読んでも読みつくせない将棋の深みに飲み込まれ、疑心暗鬼に苛まれる。そこで羽生を救ったのは、ライバルとなる一線級の棋士たちの悩み迷う姿ではなく、棋史に残るレジェンズたちのいまだ変わらぬ泰然とした佇まい。内面はおよそ明鏡止水に程遠くとも、継続こそ力なり、持続力をもって棋力とする老師たちの立ち振る舞いを見て、羽生は我に帰る。思考のエントロピーを汲み尽くさんとする若さゆえの冒険は、やがて思考の無理・無駄・ムラを極力排除し、可能な限り手を読まない「玲瓏」の境地に着地する。羽生善治、35にして惑わず。
かつて終盤重視、感覚重視の近代将棋の概念を転覆した新人類棋士たちは、できるだけ多くの手を読もうとするコンピューターとは正反対の方向へ、つまりできるだけ手を読まない方向へ進みだした。それは一見すると、感覚重視の近代将棋への単なる回帰に映るかもしれない。けれども、その実質は閃きとはほど遠い。彼らの読みを省略させているのは、直感ではなく経験なのだから。経験と直感は矛盾しない。経験の堆積なくして、直感の研磨はありえない。羽生を筆頭とする新人類棋士たちが近代将棋から分岐したのち与しているのは、その中にもう一度回帰し、新しく近代将棋を読み替えていく久闊を叙する営為なのだろう。と想像する。
うむ。私などは、羽生よりも佐藤康光の最近の将棋にこの流れを強く感じる。このへんの本を読んでみよう。
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