dust and undercover

 気がついてみると、高橋健が防御率首位。ルイスもいい。黒田の旅立ちは、思わぬ形で、投手王国再建の萌芽を促した。他方、打線は、どうやらただの屍のようだ。

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ダスト [DVD]

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 前者はあるおばあさんの家に強盗に入った黒人男性が、すったもんだの挙句におばあさんの昔話を聞く羽目になる、という話。舞台はニューヨーク。黒人の男は、麻薬を横流ししたのがその元締めであると思われる警察官にばれて脅されており、どうしても金が必要。他方、おばあさんは昔話をしている最中に、発作で倒れ、金貨を一枚だけ黒人男に渡したあと、急遽病院に搬送される。金が欲しい黒人男は、おばあさんの病院に押しかけ、しきりに残りの金貨の在り処を聞き出そうと四苦八苦するものの、出てくるのは昔話ばかり。結局、おばあさんの家を荒らしまわり、独力で大量の金貨を発見する。金貨を得た黒人男だが、目的を果たした後も、かいがいしく病院へ通い、おばあさんの昔話に聞き入る。おばあさんの話が佳境に差し掛かったとき、おばあさんは息を引き取る。その後、黒人男は、おばあさんの遺骨を手に、物語の舞台であるマケドニアまで旅をし、中途、機内で隣に座った女性におばあさんの話の続きを創作して披露する。
 話の内容は、オスマントルコ支配に抗するマケドニアの内戦を背景とした「カインとアベル」のようなもの。聖書的なallusionが多数出てくる。この兄弟は、アメリカ西部の出身なのだが、娼婦をめぐって仲違いし、兄の方はたまたま目にしたキネトグラフで、マケドニアの「先生」と呼ばれる賞金首を追っかけ、海を渡る。やがて、弟もそれをおっかけていって、めんどうくさいことになる。
 異国情緒を刺激する映像を並べたキネトグラフが、ひとりの男の金銭欲を惹起し、なんの縁もないマケドニアという異国まで赴かせるというあたりがおもしろい。フロンティアが消滅したアメリカのカウボーイが、なおもフロンティアズマンとして生きるには、こういう外部が必要で、そうした外部を欲望させる幻燈こそがキネトグラフであったということだろうか。
 ところで、話の中では言語によるコミュニケーションはほとんど交わされない。語り手が今にも冥界へと旅立たんとする中で必死に語るのに、語られている人々はいたって無口であるし、何よりも異言語の障壁によりコミュニケーションの可能性は制限されている。したがって、物語は言語の代わりに、行為、それもほとんどは内戦の殺戮行為を推進力とする。そんなすべての絆が断ち切られる極限状況の中であっても、いやその只中だからこそ、かすかな絆と新しい命が紡がれるという逆説が見所。
 あとは、失われていく物語の語り継ぎというのも主題のひとつか。事件の当事者からその娘(?)へ、そしてまったく関係のない黒人の若者へ、という流れ。語り継ぎの中で、物語にずれが生じるというところを焦点化していて、トルコ兵200人が黒人の介入によって20人に変更され、さらに老婆の死後、黒人が独力で創作し、物語の続きを作っていく。語りのダイナミズムを前景化し、物語の改変や修正を積極的に支持し、国家や人種を原基とした物語の偏狭な囲い込みを退ける姿勢が特徴的。
 後者は、白人至上主義で世界征服をたくらむ組織に対抗する黒人至上主義の組織、ブラザーフッドの戦いのお話。Norbit にもちょい役で出ていたエディン・グリフィンが主役で、シモネタ全開で大暴走。黒人でなぜかカンフーの達人という設定。Norbitはつまらんかったけど、これはおもしろい。変装、あるいはpassingというのは、やっぱりミンストレル以来の黒人の伝統芸能なのだなあと思う。ところで、やっぱりO.J.はクロなんだね。