緒戦はこんなもの

 飛行機狂でただ機内の人になりたいがために飛んでこられた嫁の友人夫妻と古民家を改築した店で昼食。都会の喧騒の中に囲繞された静寂を、赤ん坊の泣き声がやすやすと破る。赤ん坊をあやしながら、マクロビオティックに夢中の奥様と「肉を食わせてくれ」と懇願する旦那さんがやりあう。折り合うところがないご両人の妥協なき折衝は、菜食/肉食を超えて、欧州/東アジア、アクション/ラブコメにまで及ぶ。どこにも妥協点は見出せないが、それでも赤ん坊は、偏食しない中東をこよなく愛するホラー映画好きの好青年に成長するだろう。
 ちょいちょい買い物して、夜は「北征」の機先を制して敵陣深く焼き鳥屋「信秀」。歌舞伎役者と演歌歌手の写真がぐるりと取り囲む店内。最近ではジェロも来店したというではないか。大将はやおら2枚ハンカチを取り出して、かろやかに魔術を披露。焼き鳥屋に鳩が舞ったらどうしようかと冷や冷やしたが、自重された様子。単に女性の手を握るための芸のような気がしないでもない。TARA氏が茹で上がるのを待って、川沿いリバーサイドの屋台でラーメン。虫垂に爆弾を抱えたTORAさんのハンドルで駅まで見送られて、汽車で帰還、「北征」に備える。お大事に。 

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逝年―Call boy〈2〉

逝年―Call boy〈2〉

 『娼年』の続編。
 相変わらず情事の筆致は繊細で、冴えているのだが、うーん。ジェンダートラブルを抱える娼夫(婦)とついにHIVを発症するオーナーの話が軸。でもお題を消化しきれてなくて、説明的過ぎるような。某アイドルの料理コーナーを想起させる「ウィ・ムッシュ」という掛け声や人知れず悩む当事者がトランスジェンダーの統計を持ち出してドライに説明する箇所など、読む気を殺がれる箇所は無数にある。続編の宿命なのか、著者が忙しすぎるのか。