闘人烈伝
髪を切るときは静かにしていてほしい。なんだか黙っていると、こっちが悪いことをしているような気分になる。ともかく、毎度、ずいぶん大変な仕事させてすんません。
まだ工場は燃えているらしい、とは床屋政談の微々たる成果。
- 作者: 夢枕獏
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2000/06
- メディア: 新書
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中でも格闘小説の金字塔といえるのは、「涙のカリスマ」から「痩身のカリスマ」へと転身をはかろうとしている大仁田厚「愛のパワーボム」。明らかにご本人がモデルと思われるが、女性にモテモテ、ハーレム状態のスーパー格闘家という設定は、創作というより妄想に類する。囚われの女性を救出しにヤクザのアジトに乗り込み、最後はアントニオ猪木がモデルと思しきレスラーとの決戦を告げるゴングが鳴るところで終わる。これほどまでに猪木を引っ張り出したかったのか、と感じ入る。ハーレムとヤクザは理解できないが。
蝶野・ムタ・長州力・天龍といった名だたるレスラーを電流爆破デスマッチのリングに引き入れ、結んだ夢を正夢に開いてきた大仁田のこと、こんなコングロマリットな妄想も実現させてしまうのかもしれない、という思いがつい脳裏を掠め、吐き気がしてきた。
あとがきを読むと、夢枕獏の熱さに圧倒される。『おとうさんのバックドロップ』の解説と同様、作家自身がまるで予期していないところから熱気を掘り出す、あるいはひねり出す、いや捏造する技量は達人級かもしれない。豪儀。