オリンピックとシャツの秘密

 レーザーレーサーを着用しているわけでもないのに、ウサイン・ボルトは軽々と男子100メートルの世界新、9秒69をたたき出し、あろうことか男子200メートルでは、かのマイケル・ジョンソンの世界記録を塗り替える19秒30という金字塔を打ち立てた。100メートルのゴール前は走り抜けた、というより踊り抜けた、というような余裕綽々のレース振りで、ただあきれ返るばかり。生理学者の試算によると、男子100メートルの限界値は9秒37、男子200メートルの限界値は18秒32(!)だというから、まだまだ世界記録更新の夢は続く。

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 女子ソフトボールが悲願の金メダル獲得。解説を務めた宇津木前監督の感涙につられて思わず落涙。どうしても超えられなかったアメリカの壁を乗り越えたのだから、いくら喜んでも喜び足りない。しかし、現時点ではこれが最初にして最後の金メダルになることは確実な情勢にある。次回ロンドンでは、女子ソフトボールは正式種目として組み込まれていない。普段は日の目を見ないマイナースポーツだからこそ、4年に1度輝く意義がある。野球も同様の経緯を辿ったが、オリンピックがなくとも脚光を浴びる場はいくらでもある。たとえ男子サッカーが正式種目から外れても特に何も感じない。けれども、女子ソフトボールのようなマイナースポーツが輝く場所を奪われるのは忍びない。もっとも、世界的な普及度がまだまだという点を突っ込まれると、しどろもどろにならざるをえない。

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 男子5000メートル予選、日本記録保持者の松宮隆行は、レース中盤他国の選手に靴を踏まれ、片方の靴が脱げてしまい、そのまま失速して、予選落ちの憂き目に遭った。レース後のインタヴュー、靴が脱げた点を問われると、「靴が脱げても脱げなくても敵いませんでした。これが自分の実力です」とあっけらかんと答える。内では悔しさを押し殺しているのだろうが、春風駘蕩とした口ぶりになんだか肩透かしを食らったような腑に落ちない感じを受ける。
 しかし、さすが中距離トラックの第一人者、その後が違った。「今日から頑張ります」。頼むから今日は早く寝てくれ。画面のこちら側から必死に拝んだ。

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 中距離トラックのレースを見ていると、まるで競輪や競馬のそれを見ているような既視感に襲われる。差しや捲りがきれいに決まる。さすがに追い込みは届かないが、短距離にはない魅力を感じた。道中の押したり当たったりの小競り合いも迫力がある。男子1500メートルで4角捲りを鮮やかに決めたバーレーンのラシド・ラムジの末脚は特に切れ味抜群だった。

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 先日、ファミレスで本を読んでいたときのこと、ふと左胸に違和感を感じた。といっても、心臓のそれではなく、もっと表皮に近い箇所がなにやらおかしい。シャツをたぐって中を見てみると、ポケットの入り口がシャツの中から覗いている。Tシャツやジャージの後ろ前というのはよくやるが、裏表というのは新しい。焼きが回ったもんだ。そう感心しながら、トイレに駆け込みいざシャツを脱いでみると、驚愕の事実にひっくり返った。胸ポケットが表に出るようにシャツを裏返すと、首根っこのあたりに収まるはずのタグが外に垂れ下がる。右のわき腹あたりでおとなしくしているはずのタグも、これみよがしに屹立している。つまり、このシャツのポケットを担当した工員は、ポケットを内側につけてしまったのだ。いまどき、アウトレットでもこんなfreakyなシャツは売っていないだろう。よーし、今日はパーティだ。コンビニ弁当をビールで流し込んだ。