goth
- 作者: 乙一
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2005/06/25
- メディア: 文庫
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巷の評判は、テーマ設定上、毀誉褒貶相半ば、賛否両論といったところだと思う。しかし、残酷さという点では、筒井康隆ほど達観し突き抜けているわけではない。一見冷たく見えるが、彼らなりに葛藤を抱えている。普段仮面を被って生活している二人の人物造型と同様、不感症の文体もポーズだと思う。ポーズの向こう側に隠れている思いを汲むのもいいし、トリックの予想や推理に明け暮れるのもいい。「驚いてやるもんか」と身構えて読むミステリ嫌いは手に取らないほうが無難。「そんなに頻繁に近所で猟奇的殺人が起こるかよ」というツッコミはもちろん禁止。
情景描写に心理描写を代理させて、恬淡と物語を綴っていく手際が見事。ほぼ無感情の二人の主人公と同様、文体も感情的な揺れ動きを極力削ぎ落とし、冷徹に場面を構成している。暗澹とした雰囲気が物語全体に影を落とし、晴れ晴れとした結末はやってこない。犯人は決して逮捕されないし、誰も正義を代表したりはしない。けれども、そういう割り切れなさが余韻を生んでいる。と勝手に思う。
叙述トリックが冴え渡る「犬」、内面の闇に対するアクセスを竹筒が刺さった土中の死体で表現する「土」がいい。
一部、映画化されているらしい。
純文学とエンタテインメントの壁が崩れて久しいが、ラノベと主流の境目もわからなくなった。
文句がひとつ。こんな薄っぺらい本なのに、なんでふたつに分けるかね。商魂逞しいわ。