葉桜の季節に君を想うということ

 

葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)

葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)

 出版当時、ミステリ界のあらゆる賞を総なめにした本格ミステリ長編。駅のホームで飛び込み自殺を図った女を助け、霊感商法に騙された老人の事故死を調査する素人探偵の話。なにを書いてもネタばれになってしまうのでなにも書けないが、私的シーズンベスト(あるいは年間ベスト)だと断言できる。伏線の張り方、謎解きは当然のこと、登場人物の名前からサイドストーリーに至るまで、すべてひとつの大河へと流れ込むよう計算されている。喜怒哀楽が整然とした理路に血を通わせ、世代を超える物語が老いも若きもひっくるめて躍動させ、馥郁たる残り香を残して鮮やかに閉じる。余韻が長い。重いところも冗長にならず、深さを速さに転化した簡捷さが魅力的。思索が沈思黙考へと沈殿するのではなく、物語として消化/昇華されている。大河の三分三厘、勝負どころの魚断で、久しぶりにわが泥舟はひっくりかえった。