秘境

 「秘境」筋湯へ。
 駅前のスーパーで食料を買いこんで素泊まり、という予定だったが、なんと店休日という悪夢。
 九十九折ならぬ九十九畳とでもいうべき難解な山道をだらんだらん進むバスの車中で、サニーサイドアップがアップサイドダウンでサニーサイドダウンで目玉が破れて黄身が飛び出て僕はダウン。
 耳の奥のカタツムリに異常を感じつつ、宿泊先の近所にある民宿に事情を説明、突然の申し出にもかかわらず夕食と朝食をご提供いただく。秘境にはコンビニも食事処も居酒屋もない。人とのつながりが生命線。
 口を糊する見通しが立ち、俄然元気になって、宿泊先の畳にダイブする。ごろごろしながら桐野夏生『メタボラ』を読了後、食事に向かう。せっかくのご馳走だが、一人だとものの15分もあれば平らげてしまう。再び宿に帰って、湯治客の暇つぶし用蔵書『ブラックジャックによろしく』を研修医の真っ正直さにいらいらしながら完走。発表を終えて帰ってきた嫁と家族風呂に浸かり、いや漬かり、すっかり茹で上がったところで布団に包まる。ああ、酒が欲しい。