五養宿 辰巳屋

 朝食後、諸般の事情で私めも研究施設へ。誰もいない会議室で『欧米探偵小説のナラトロジー』を読了。
 犯罪小説と本格探偵小説の系譜をオイディプス神話にまで遡って検証後、ポー、ホフマンあたりから戦前の黄金期まで概括。演繹でも帰納でもないアブダクション探偵物語の論理構造として特定し、倒叙からハードボイルドまで歯切れよく語り口を解説。やっぱり伊坂幸太郎レイモンド・チャンドラーの系譜、ということでほぼ確信。
 そうこうしているうちに学会も終わったようで、嫁とタクシーでバス停まで。運賃はほとんど初乗りなのに、迎車だけで3500円取られる。これもタクシーが一社一台しかない「秘境」ならでは。
 電車到着まで時間があるので食事処を探すが、歩くと往復30分かかると駅員に忠告される。だが、駅前のスナックで洗いものをしていたおばちゃんに頼むと、ものの10秒ぐらいでうどんの出前へと落着する。スナック店内の低いテーブルでうどんをすすりながら、ビールで喉を洗い、おばちゃんの三段腹トークにがはがは笑う。おみやげに湧水2リットルをありがたくいただくが、道中、重い槍(2キロ)に苦しむことになる。
 湯布院で下車してドラゴンフルーツのアイスを食う。
 大分で乗り換えて、別府まで。バスで鉄輪へ。コンビニで酒類をごっそり買い込み臨戦態勢を整え、旅館「辰巳屋」へ。
 足湯ならぬ足蒸し(無料)が近くにあるとのことで、さっそく体験。冷え性の人にはいいでしょう。
 家族風呂で心身に堆積していた澱を洗い流しながら、煩悩を高度2万フィートまで堆く積み上げ、もうたまらん、夕食へ。刺身に小ぶりの鍋に地獄蒸しに牛ステーキまでついてきて、他にも小鉢がずらりと並ぶ。持ち込んだビールを次々と空け、部屋に帰り焼酎で締める。この値段でこの料理の質と量とおばちゃんの笑顔は奇跡。また来よう。