ジェシカが駆け抜けた七年間について

 みなさまよいお年を。
 

 エチオピア人女子マラソンランナーの7年間をめぐるお話。時差を上手に使った一種の叙述トリック、という分類になるのだろうか。初期の作品に比べると、文章も断然よくなっている印象。ジェシカに嫌疑がかかる場面をもう少し演出した方が終盤落差がついただろうし、「分身」をめぐるミスディレクションも際立ったかもしれない。トリックに関しては予測ができてしまったので、あまり衝撃はなかった。けれど、本作は殺人の方法論よりも、目的論の方に重心がある。『葉桜』と同様、動機がよく練られている。もうちょい枚数があればもっと描写できるのに、という感じがしなくもないが、あんまり長くなると「駆け抜けた」感じもなくなってしまうだろうし。
 そんな細かいところなんかはどうでもよい。アルバカーキで丑の刻参りなんて誰が思いつくだろう。おふざけぎりぎりの幻想性に快哉を叫ぶ。