ギュスターヴ・モロー

 アパルトマンから徒歩で。何の変哲もない住宅街の一角にひっそりと佇んでいるモロー邸。
 モローの生活空間が展示されている。例にもれず、ギリシャ・ローマ系の骨董品がならび、ヴィクトリア&アルバート大英博物館でもお目にかかった蛇の乗った皿のリメイクも蒐集していたようだ。さらには、

 

と、ジャポニズムへの関心も窺わせる。

 

 さらにはたくさんの剥製の入ったガラス容器。神秘的な作風が身上のモローだけに、エキゾティシズムとは縁が深いようだ。
 階段を登っていくと、たくさんの絵画・デッサン。イーゼルに嵌められたままの未完成作もならんでいる。さながら、ギャラリー・ペインティングの世界に迷い込んだような感覚に襲われる。
 実際に本物の絵を鑑賞する醍醐味は、写真や絵葉書ではわからない彩色の妙やタッチの硬軟、画布に積まれた色の厚みを味わうことができる点にあると思う。ルーヴルの『モナ・リザ』のように、防弾ガラスにまで守られてしまうとそれも叶わないのだが、ここは目と鼻の先で作品を鑑賞できる。
 『さかしま』のデ・ゼッサントを虜にしたモローの作品群は、想像以上にざらざらしていて、思いのほか情念の強度を伝えていた。美学的な点に関しては別稿に譲るとしよう。