葉巻でイマジン

 ベランダに放置してあるオーヴントースターに腰かけて葉巻を吸っていた。タバコがなくなったら葉巻を吸うなんて、マリー・アントワネットみたいだな、と思う。
 今、ここで扉に鍵をかけられて締め出されたとしたら、と妄想が膨らんでいく。この妄想には条件がいる。私が外部に助けを求められないように枷を嵌めなければならない。なら、私は全裸で葉巻を吸っていることにしよう。全裸で葉巻を吸っている人物が、外部に助けを求めようとするはずがないから。締め出された原因、私を締めだした人物は不明のままで、全裸の男が外の世界に助けを求めるのはリスクが大きすぎる。命の危険と同等か、それに準ずる危険に脅かされない限り、全裸の男は助けを求めたりしないだろう。
 さて、ここでベランダに締め出された全裸の男が助けを求める可能性を排除した上で、その可能性を排除したままにしておける程度の負荷をこの男にかけるにはどうしたらよいだろう。しばし熟考。
 私が出した結論は、私を締めだした何某が、ガラス一枚を挟んだ室内で葉巻を吸う、というものだった。できるだけ無表情がいい。煙だけがもくもくと室内を満たしていって、その何某の顔も姿も隠してしまうような。私はたぶん全裸のまま葉巻を吸うだろう。でも私の吐き出す煙は、外気に乗ってどこまでも拡散し、雲に届く前に消えてしまう。室内の何某のように「雲隠れ」するわけにもいかない。私は葉巻を吸えば吸うほど裸になるだろう。だんだん室内は見えなくなっていく。キューバ産葉巻をなめてはいけない。
 そこまで考えたところで、葉巻を一本吸い終えた。