計画的に生活をするぞ

 半月一万円生活がようやく終了した。よゐこの濱口のようにもやしを育てたり、エイと戦ったりするサヴァイヴァル生活とまではいかなかったが、終盤は結構しんどかった。とはいえ、今回改めて気づかされたのは自炊の威力である。煮物をまとめて作ったり、おでんを大量に作ったりしながら効率的に日々摂生すれば、生活も規則的になり、しかも出来合いのものよりも遥かにおいしいものを食べることができる。料理も意外に面白い。日々語りかけても何も返してこない人工物(テレビやパソコン)と向かい合っている身としては、少なくとも料理すれば、おいしい/まずいという明白な結果を投げ返してくる素材たちは実にありがたい。うん、結構健康的に見えて、病的な諸相が見え隠れする、楽しそうに見えて、ちょっと怖い話でした。今月はちゃんと生活するぞ。

サイードと歴史の記述 (ポストモダン・ブックス)

サイードと歴史の記述 (ポストモダン・ブックス)

ポストコロニアリズム (岩波新書)

ポストコロニアリズム (岩波新書)

 Walter Benn Michealsのような殺伐とした黙示禄的世界を見た後では、Edward Saidあたりがほっとする。「ポストモダン・ブックス」シリーズの『サイードと歴史の記述』は実に素晴らしい解説書だ。『ダナ・ハラウェイと遺伝子組換え食品』とか『エーコとサッカー』、『ハイデガーとハバーマスと携帯電話』といった異形のタイトルが並ぶ同シリーズだが、この『サイードと歴史の記述』は正統派。とはいえ、概説書にありがちな伝記的記述に引きずられる牽引感はなし。様々な理論家との対話の中で懇切丁寧に接点を探る。短いが決して裏切らない。富山太佳夫の解説も巨視的視点からサイードの位置を整理し、実に明快。やはりサイードは、脱構築とも新歴史主義ともポストコロニアリズムとも一線を画す。イズムに回収されない個性に批評家としての凄みがある。
 併せて、本橋哲哉の『ポストコロニアリズム』も素晴らしい概説書。私はポストコロニアリズムの勉強は、それ一本で研究しないのであれば、優れた概説書を消化するだけでいい、とすら思っている不届き者だが、そうした怠慢やる方ない諸氏にぴったりの好書。『サイードと歴史の記述』の2倍ぐらいの分量だが、読むのが早い人ならきっと2時間ぐらいで読むのでは。特にポスコロの原点ともいえるコロンブスの時代と「カニバル(cannibal」の言説をきっちり説明している当たり、私のようにいつまでも初心者の人間にとって極めてありがたい。もちろん、ファノン、サイードスピヴァクあたりの重要な批評家についても一番絞りのおいしい部分を提供してくれる。