ディープインパクト考

「(見えない)欲望へ向けて」読了。

煮物を例のごとく大量に作る。今回は結構うまくできた。2日はもつだろう。そろそろ何か違うものを作ろうか。それにしても「あやや」をみると前健を思い出してしょうがない。逆も可。マエケンは英語ぺらぺららしい。どこで使うのだろう。

ディープインパクトの三冠奪取がかかった菊花賞が、明日京都競馬場にて行われる。前々日オッズを見ると、ディープの単勝は100円、元返し。2番人気シックスセンス単勝が70倍超であることを考えると、ディープの単勝支持率はほとんど90パーセントに近いものなっているのではないだろうか。実際いくら穴探しをしてみたところで無駄なことは分かりきっている。3000メートルが初めてとはいうのは全馬共通の条件だし、元来スタートが苦手な同馬にとって距離延長はプラスにこそなれマイナスにはなり得ない。血気盛んな気性も随分解消されて、精神的に大きく成長した。それでも敢えて死角を探るとすれば、それは他の騎手の作戦次第ということになる。騎手3、馬7という競馬界に流通する人間と馬の出力関係は、距離が伸びれば伸びるほどフレキシブルなものになる。馬はゴールを知らない。故に馬は走る距離を知らない。だからこそ、馬に乗る騎手の作戦は距離が伸びれば伸びるほど大きな意味を持ってくる。
 マヤノトップガンサクラローレルマーベラスサンデーの三強対決に沸いたかつての「天皇賞・春」では、トップガン田原成貴の作戦が大いに注目を集めた。前走「阪神大賞典」では、それまでの先行好位差し(あるいは逃げ)の競馬から一転させて、最後方からレースを進め、直線で差し切る極端な作戦を取ったからだ。これが、本番を見据えての作戦だったことは言うまでもない。前年の「有馬記念」でサクラローレルは差してきたマーべラスサンデーを完封している。マーベラス武豊がローレル=横山典を意識し、出し抜こうと考えるのは必然とも言えた。それゆえ、「阪神大賞典」でトップガン=田原は後方からの競馬を選択し、前の争いを漁夫の利とするための予行練習をしたのだ。かくして本番「天皇賞」では、前年のチャンピオンホース、ローレルが正攻法の競馬でマーベラスをねじ伏せにかかった瞬間、最大限まで足を溜めたトップガンは、放たれた矢の如く並ぶ間もなく大外から両馬を交わし去った。気難しいトップガンとローレルの立場を考えに考え抜いた田原の英断だった。
 世紀は替わり、「トップガン」は菊の舞台に現れるか。今回のディープが前走と同じく後方からの競馬を選択し、4角捲りから直線突き放す競馬をするのは間違いない。変わらない競馬をすることが、天才武豊の最も賢明な選択であることはこれまでの輝かしい戦歴が事後的に物語っている。作戦が必要なのは他馬である。死角はどこに存在するか。それはディープが4角捲りに出れない場合しかない。ディープが先団にとりつく脚は史上稀に見るといってもいい。それを封じるには、ディープよりも外を回った馬がディープを内に閉じ込めるしかない。しかし、ディープを閉じ込める馬は確実に勝つことはない。同じ位置から動いては手も足も出ないのは必定ともいえるからだ。負かす馬は、ディープを他の馬が内に封じ込めた上でディープよりも前に位置し、かつ一瞬の脚がディープを上回る馬。長く高次元の脚を使えるということに関しては、ディープはおそらく中央競馬史上最強の存在だといっていい。しかし、100メートルぐらいならディープよりも速い脚を使える馬がいるかもしれない。だが、残念ながら今回のメンバーでそんな存在はいない。結局いくら穴を考えてもそれは杞憂に終わる宿命にある。故障という最悪のシナリオと大雨という天災を除いては。見るのが賢明だ。
 今後に夢は広がる。「プロレスファンはわがままだ」といったのはUWFに夢を見た森本レオだが、競馬ファンも負けず劣らずわがままだ。すでに英チャンピオンSで2着し、昨年の古馬三冠を達成した現役最強馬ゼンノロブロイよりもディープは強い、というまことしやかな噂も聞かれる。それどころか世界最強とまでいうものもいる。競馬ファンは貪欲だ。だが、無敗で三冠を達成した先達の教えは、そうした熱狂にある種のたしなめをもたらすだろう。
 「日本ダービー」断然の一番人気に推されたシンボリルドルフは、当時「ダービーポジション」と言われた4角で先行馬を視界に入れる位置になかなか行こうとしない。鞍上岡部幸雄はあせった。押せど引けど馬は進まない。しかし、この馬は競馬を知っていた。直線半ば突如としてルドルフは加速し、一気に前を交わし去った。後に岡部は語った。「ルドルフが競馬を教えてくれた」、と。ルドルフは無敗で3冠を達成し、暮れの祭典「有馬記念」も快勝し、名実ともに現役最強馬になった。当時の常識を破ったルドルフ。そして後に史上最多勝ジョッキーとなった岡部。鞍上にあらゆる記録を破りつづける武豊を掲げたディープにルドルフの姿を重ねるのも悪くはない。焦るな、俺!きっとディープは彼なりの競馬を教えてくれる。