7日目

 9時ごろ起床。本日はフィレンツェの要所を一気に回る予定。
 ウフィッツィ美術館に行く途中、ドゥオモ付近にコダックの店を発見。電池を買う。店主のおじいさん、大変気さくな方(英語可)。日本人のオペラ歌手など日本人にも知り合いがいるようで、いろいろ写真を見せていただく。娘はピサのあたりですさまじい数の犬(嫁の記録によると145匹)と暮らすベジタリアンらしい。息子はオーストラリア在住。今は奥さんに先立たれ、ひとりで店を経営しているとか。ジプシーに対する警戒心が印象に残った。客が入店するまで入り口は施錠、「スリに気をつけろ」とくどいほど注意される。ちなみに、ウフィッツィに行く途中、共和国広場のあたりでメモリーがなくなり、メモリーカードを買いに再び来店。2G(イタリア語では「ジガ」と発音する)のカードを買うと、そんなに写真を撮るのか、と驚かれる。「典型的日本人だな」と呆れられる。眼鏡も装着してまっせ。


 ウフィッツィ美術館に到着。すさまじい長蛇の列にたじろぐ。いちゃつくイタリア人観光客と真っ白な彫像に化けたパフォーマー(金色ヴァージョンもあり)を観察しながら過ごすことおよそ一時間。ようやく順番がやってきた。内部は撮影不可(フィレンツェではほとんど撮影不可。美術品保護というのは建前で、観覧の最後に待ち構えているお土産屋の売り上げを伸ばすためだろうと邪推してみる。フィレンツェ人はがめついのだ。もちろん人情にも厚い)。事前に嫁がしっかり調べてくれていたお陰で、主要な展示物を効率よく見ることができた。全部見るととんでもない時間がかかる。嫁はボッティッチェリの「春」と「ヴィーナス誕生」、私はミケランジェロの「聖家族」を中心に。今話題のダ・ヴィンチ作「受胎告知」も当然。もの凄くタッチが細やか。天使の翼は凄かった。空腹に負けて一時間ほどで外に出る。

 ウフィッツィ出口すぐそばのカフェで昼食。嫁はピザとフルーツ。私はパスタとビール。非常に感じのよい店員さん。ホスピタリティの勝負では、ローマよりもフィレンツェだね。
 カフェを出て、川沿いをポンテ・ベッキオ橋目掛けて歩く。絶景。観光客多し。フィレンツェ随一の名所、ポンテ・ベッキオ橋には宝石店が所狭しと並ぶ。ところで、ここで宝石を買う人がどれだけいることか。ほとんどひやかしではないのか。
 橋を渡りきったところでUターン、ドゥオーモの北側、アカデミア美術館を目指す。各国語の落書きを眺めながら列に並んでいると、割り込もうと頑張るおばちゃんが。強引に突破しようとするも、チケット売り場で追い返されていた。ウフィッツィに比べれば大したことのない行列なのに、せっかちだねえ。ここのメインは、ミケランジェロダヴィデ像。手がでかい。技法上の問題だろうか。その割に大事な部分が小さい、とは嫁のメモによる。その他はフレスコ画の聖母子が並ぶ。
 アカデミア美術館を出ると、まだ時間があったので、ガイドブックを開き、しばし検討。サン・マルコ美術館へ(フィレンツェの美術館はほとんど撮影不可)。嫁のメモによると、ここが本日のハイライト。ここの係員、非常に愛想がよい。中に入ると人もまばら。歴史的には非常に由緒ある元修道院なのだが、意外に穴場なのか。入るとまず中庭。その中庭から各部屋へと通じている。灰皿完備。2階に上ると、フラ・アンジェリコの「受胎告知」が。尼僧が夜を過ごしたであろう小部屋がずらっと並ぶ。その部屋の一つ一つにキリストの受難に関する図像が掲げてある。特に磔が多い。キリストの頭上にはINRI、足元には髑髏。一番奥に修道院長の部屋。サヴォナローラの火刑の図像。
 前日にReonald(ドゥオーモ美術館の係員)に教えてもらったMossacceという店に行ってみたが閉店だったので、宿泊先のホテル・サンジョルジョ&オリンピコから程近い、なんとかという店に入る。今回の旅で最もホスピタリティ度の高い店。22歳の男性店員がとにかく何かと楽しませようと試みる。仕事をしながらの大学一年生。英語を専攻しているらしいが、日本にも興味があるという。「おいしい」、「ハラキリ」、「カトチャンペ」などなど。パスタやサラダ、キアンティを都合フルボトル。
 隣の席に通されたアメリカ人夫婦(50から60ぐらい)に、この男性店員が "Japanese menu?" と訊いたことで自然と隣同士会話をするようになる。この二人、再婚らしいのだが、実に仲良し。本日アリゾナからはるばるフィレンツェに到着したばかりで、これからイタリアの各地をバスツアーで回る予定らしい。女性の方は、なんでも教員らしく、私のさなばびっちな発音にもいやな顔ひとつせず耳を傾けてくれた。男性の前妻との間の娘さんは、日本に留学し、現在日本で英語教師をしているらしい(『源氏物語』が専門だったとか)。あれま。この辺で、当方も身の上を暴露すると、一様に米国の文学を日本人が勉強してることに驚かれる。フォー○ナーなんてアメリカ人でもわからないのに、あんなものなんで読むのか。ごもっとも。メル×ィルを読めるのか。そりゃ、私も人間ですから、字面を追えといわれれば、追いますが、はっきりってあんなもの読も・・・。などなど。嫁の留学時代のグレイハウンド体験に腰を抜かしていた。そういや、村上○樹知らなかったなあ。あんま有名じゃないのかな?
 会計の際、例の男子店員が日本人の女の子にホの字の様子だったので、「ナンパ」という生きた日本語を教える。しきりに、そんなことはしない、と否定していたが、果たして。あれ、うちの嫁も確か日本人女・・・。大きな笑い声で周りの客の顰蹙を買った楽しいひと時でした。旅の恥は掻き捨て。
 ホテルに戻り就寝。