Jafari Sinclaire Allen "Black Diaspora Geneologies from 'Niggernicity' to Manifold Futures"
 コロンビア大学・人類学専攻院生*1による、ディアスポラ理論を批判的に検討し、自らのAfro-Cuba研究の正当性を主張する論文。理路自体がディアスポラ理論のごとく錯綜しており、当人も最後の方で "our winding road" と記すように、まるでどこに行くか、何がしたいのか不明。もう少しまとめる努力をしていただきたい。
 仮構されたディアスポラ共同体内部の分裂。ジェンダー、クラス、ナショナリティ等の差異の重要性。アカデミックなエリート黒人よりも、より一般的な黒人に目を向けるべき。共有された(無)意識とその変化。本質主義構築主義。研究と一般社会における経験。ディアスポラ言説の変遷と問題点。雑種混淆性と時/空間・場所。などなど。
 本質主義と非本質主義マニ教的dichotomyが擬似対立であるということを前提としたフィールドで戦おうという心意気(174)は理解するが、そんな混沌としたフィールドに果たしてどれだけの読者がついて来るか。fakeでもfalseでもいいから、二項対立の崩壊から何が生まれるのかを説得的に示す必要があるのではないか。狙っているのかどうか知らないが、議論自体が、混沌としたフィールドになってしまっている。混沌としたものを整理するとそこから零れ落ちるものが気になるのかもしれない。けれど、結局全部詰め込もうとするとただの箇条書きになる。自戒。
 家族的類似性、あるいはハビトゥスのような連帯としての "serial collectivity"や "prereflectivity"(Iris Marion Young)、それからゲームのルールに準じた "strategies" とルール自体をインプロヴァイズする "tactics" (ブルデュー*2などは重要な伏線になりうるのに、どうして繰り返し使用しないのか。定型あってこその型破り。羅列するだけでは説得できない。
 とはいっても、羅列でも知識の蓄積にはなる。そういう意味ではとても勉強になった。

"negritude is at root of its own destruction" (Sartre 180)

DuBois "asserted that processes of racialization could create unified communities existing in harmony with the national community" (Carby 183)

Pan-Africanism4つの衝動 (St.Clair Drake 184)

  1. mass emigration
  2. expatriation
  3. separatist nationalism
  4. pluralist integration(African American)

 

Afrocentricity6つの限界(Carol Boyce Davies 182)

  1. Eurocentrismを超えられない
  2. マニ教
  3. 自民族中心主義を平板化し鵜呑みにする
  4. 内的差異を抹消する、あるいは(Afrocentric Feminismのような形で)併合する全体化言説
  5. 「アフリカ」がヨーロッパによる構築物である点に無知なため、引き続き同じようにアフリカを捏造し続けてしまう
  6. 現代のアフリカと結びつかない

Every story is a travel story (Michel deCerteau 194)

[African diaspora narratives] contitute "spatial trajectories" (deCerteau 1984) that include the counter-invention of Africa as idyllic "homeland"―but one "lost," perhaps forever. (194)

*1:当時。現在はテキサス大学オースティン校のassistant professor→http://www.utexas.edu/research/eureka/faculty/view.php?pid=1705

*2:tacticsはhybridityのところでもう一度使われるが、これとてよっぽど注意深く読んでないと気付かない。assimilationではなくcommunicationの手段(Negritude 179)。