快楽の動詞

 

快楽の動詞 (文春文庫)

快楽の動詞 (文春文庫)

 初めて山田の本を読んだ。といっても短編集、あるいはエッセー集。そのジャンル横断的で不定形な括りの緩さがこの本の特徴か。語感や言葉遊びは、個人的にはツボ。文体はおもしろいし、好みなのかもしれない。一字一句が活力に溢れ、ページを自然と繰らせる力に満ちている。
 表題作は、性を表象する日本語の妙を、日本語を通じて表現してみるといった主旨の短編、というかエッセー。ところどころに作家論のような思索を忍ばせつつ、下ネタをふんだんに駆使して筆致に推進力を与える。ひとつひとつはおもしろいエッセー、あるいは短編が並ぶ。
 だけども、読んでいるうちにだんだん飽きてくる。私は人並みはずれてわがままな読者なので、肩を揉んでもらいにやってきたとしても、足裏マッサージだってやってもらいたいし、整体なんかもお願いしたい。けれども、山田は肩しか揉まない。断固として肩しか揉まない。肩凝り対処法のヴァリエーションの豊富さはさすがだろう。叩いて揉んで、解して伸ばして、肩凝りに悩む読者は、晴れ晴れと帰路に着くに違いない。肩凝り診療のスペシャリスト、山田詠美
 果たして、山田は男女の心理戦しか書かない。引き出しの多さはさすがだけど、あたしゃ別の箪笥も覗きたい。