ラグランジュ未定乗数法って何やの?

 昼すぎに出発。ガールズトークに参加するために途中下車した嫁を見送り、自宅に帰還。大雪警報が出るなか、嫁も日付が変わる頃、帰宅。結局、降雪はなし。
 宝島の『競馬裏事件史』を読んで、3億円超の高額馬が全く走らなかった話に共感。そのコントローラーを投げたくなる気持ちよくわかるわあ。あ、ダビスタじゃあないのか。
 そのほかでは、こんな感じの本を。

知識だけあるバカになるな!

知識だけあるバカになるな!

 大学一年生のこれから教養の授業を受けます、という人たちに向けて書かれた本。といっても私が読んでも十分謙虚になれる。無知の知とか、批判は部分否定が大事とか。同じような本ばかり読んでいると、いつの間にか二項対立構造の片方にべったり与することになってしまうぞ、とか。耳が痛い。

世界一わかりやすいフロイト教授の精神分析の本

世界一わかりやすいフロイト教授の精神分析の本

 著者にフロイトが憑依して中学生(で間違っていないか)を相手に講義したらどうなるか、みたいな本。すぐ読めるけど、さすがに引っかかりが少な過ぎて、凡庸な私でもちょっと物足りない。全くの初心者にお勧め。

頭脳勝負―将棋の世界 (ちくま新書)

頭脳勝負―将棋の世界 (ちくま新書)

 若手棋士の第一人者による将棋入門書ということでいいのかな。手の意味を延々考えるようなマニアックな本ではない。駒の動かし方からルールまで解説してあるし、将棋の世界のあらましが大体わかるようになっている。谷川本や羽生本のようにある種の哲学の領域にまでは踏み込んでいないけど、棋士が閃く過程を追体験することができるところがこの本のおもしろいところ。
 なんでも81手目の局面で思考していたら、突然85手目ぐらいの局面のヴィジョンが頭に浮かぶのだとか。私のような素人は一手一手駒が動いて先の局面を読むけど、プロはそういうプロセスを経る前にまずヴィジョンがやってきて、あとから現在の局面とヴィジョンの間を思考で埋めるということか。もちろん、頻繁に起こるのではなく、集中の果てに稀に体験できることのようだが。おもしろかった。

 渡辺本とも関連するが、最強将棋ソフト「ボナンザ」と渡辺竜王との一発勝負を様々な角度から考察した本。ボナンザはチェスのソフトの成果を参考にして、しらみつぶしにあらゆる可能性を計算する力と少しでも効率よく読む力を組み合わせたものらしい。もっともコンピューターによる学習は、ある種の型に嵌ってしまう傾向を助長するようで、ある程度将棋の見識を備えた人間の介入がまだまだ必要なようだ。
 驚いたのは、チェスは10の60乗、将棋は10の220乗ほど、囲碁は10の360乗の手の広がりがあるというところ。将棋の全ての手を読みつくすには、スーパーコンピューターでも宇宙の歴史ほどの時間が必要で、つまり不可能だということ。人間よりコンピューターの方がはるかに強いチェスはおろかオセロですら、まだ「神の手」とでもいうべき最終的な解は得られていないという。なので、今後は人間の世界と同じように、to doリストをどこまでも広げるのではなく、ゲーム理論などを適宜活用してどれだけ考えないで済ますことができるか、という方向の研究が進むだろう、と思われる。もっとも、チェスが人間の思考力を短期間のうちに超えることができたのは資金力によるところが大きいわけで、将棋にそれだけの投資をするスポンサーが現われるかどうか。
 内容はおもしろいのだけど、共著者のひとりボナンザの開発者の話は、ときどき新書の域をはるかにはみ出し、暴走する。 たとえば、

 熟練した人間の棋譜との指し手一致の度合いを測る目的係数を設計し、これに停留値を与える静的評価関数の特徴ベクトルを求める。そしてこの特徴ベクトルがゼロとなる自明な解を除去し、棋譜サンプル数の不足に起因するオーバーフィッティングを回避するために、ラグランジュ未定乗数法というものを用いて、目的関数に拘束条件を課した。

 もう少し喩えたりする努力が欲しい。専門的な言葉を濫用して説明するのはある程度専門に従事している人だったら誰でもできるだろうけど、それをやると相手を極端に限定することにつながる。やっぱり読者を想定しないと。新書でこれはきついものがある。