察知力

察知力 (幻冬舎新書)

察知力 (幻冬舎新書)

 セルティック所属、日本代表MF中村俊輔の本。
 どんな環境に置かれてどんな悪い状況にあろうとも、決して責任を人に転嫁しない。原因は全部自分にある、と、ストイックに壁の突破を目指す。というよりも、壁を探し続ける。四六時中そんな風だから、ボールが頭の上のポンポン越えていくいくようなサッカーだろうと、苦手なポジションを命じられようと、監督と自分はあわない、と右から左に受け流し、状況の変化を待つような受身の姿勢を中村はとらない。監督が変わっても、その監督が求めている役割を鋭敏に「察知」し、自分の哲学やサッカー観を曲げていく。一見しなやかで柔軟だが、察知と壁の超克を常に自分に課す姿勢を変えないという意味では、これほど頑固な人もなかなかいない。いるんだ、こんな人。

トルシエ・ジャパンで左サイドにまわるよう命じられ悩んでいる中村にかけたアルディレスの言葉:

「ベンチで試合を見ていても得るものは何もない。どんなポジションであっても、11人に選ばれて、グラウンドに立つべきだ」

オシムの怒声に込められた意図:
 

 パスではなく、シュートを選んだが、ゴールが生まれなかったとき、監督は「フリーの選手がいたのに、なぜ彼にパスを出さなかったのか?」と怒鳴る。しかし、それは選手を非難しているのではなく、「シュート以外の選択肢もある」という意識づけを行っているに違いない。フリーの味方がいても、シュートを選択し、それが成功すれば、うれしそうな表情をしていた。
 そういう監督の意向を察知できず、怒られないようにと、言われたことだけをやっていたのでは、チームとしても選手としても進化はしないと思う。

他では、昨シーズンのチャンピオンズリーグ、ノック・アウト・ラウンド、対バルサ第2戦で、通常とは異なりトップ下をやるよう命じられたときの心中を明かしている箇所が、感動的だった。