オーデュボンの祈り

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

 実質的なデビュー作。外界から閉ざされた「荻島」に連れてこられたコンビニ強盗犯を中心に、さまざまな奇天烈な住人たちのとりとめのない日常といくつかの殺人事件の顛末を描く。シンプルでなんの変哲もない独立した出来事が有機的に連鎖していくさまは、カオス理論を地でいく洒脱さ。終盤、やや言葉足らずな感じはしたが、しっかりオチもついて、見事な読後感。未来を予測し、しゃべる案山子が殺されるという設定、探偵がいるから事件が起こるという逆転の発想。ページの上で血が飛び散っていてもこちらが返り血を浴びることのない清潔感はここでも徹底されていて、私などはどこか村上春樹の匂いがするのでそのあたりがときどき気にはなるが、卓抜した物語の構成と展開に引っ張り込まれる。会話もよく練られていておもしろい。毎度よく思いつくな、こんな奇抜で複雑なミステリならざるミステリ。