なでしことますらお

 なでしこジャパンの劇的ドローを皮切りに北京五輪が始まった。後半30分過ぎからちらちら見ただけなので、試合そのものに関してはよくわからない。
 ただ漠然と思ったのは、女子サッカーの試合もテクニックの点ではなかなか見ごたえがある、ということ。リフティングの要領で相手ディフェンダーの頭上でボールを華麗に往復させ、翻弄した左サイドの某なでしこは拍手喝采ものだし、同点ゴールとなった澤のボレーは難度の高さが際立つ。
 だが、女子サッカーは、男子を基準にするとスピードと運動量の点で大きく見劣りしてしまう。
 ドーバー海峡横断の世界記録を保持しているのは女性で、しかも次点の男性の記録に30分以上水をあけているというから、極限状況のスタミナを問う世界では女性の方が上なのだろう。しかし、臨機応変にペースを変えて走り続ける必要のあるサッカーのようなスポーツで、男子と同じ基準で女子サッカーを考えるのは無理がある。
 全体的にスペースが大きく空いてしまって、トップとボトムのあいだが間延びしている時間帯が長いと、サッカーとしては面白みに欠ける。より観客を集め、視聴者をひきつける試合を提供するために、男子サッカーとは似て非なる競技として女子サッカーを定義し直してみるのはどうだろう。たとえば、人数を増やすか、ピッチを狭くしてみたらどうだろう。そんなことを考えてしまった。
 男子サッカーの方は、選手を出場させるか否かをめぐって、強豪クラブとFIFAとの間の綱引きが長引き、波紋を投げかけている。個人的には五輪は伸び盛りの若手が国際経験を積む場であって、A代表で活躍している若手選手やベテラン選手は出場する必要はない、という立場だが、いずれにしても、本番が今日にも始まろうかという時期になってごたごた揉めるのは、出場の可否が決まらないメッシのような選手にとって不幸なことこの上ない。五輪の位置づけに関する合意形成を怠った結果だろう。
 面倒ごとはさておいて、「ますらお」ジャパンは、トゥーロン国際を経て精神的に大きく成長し、五輪予選時の箸にも棒にもかからない状態は脱した。メダルの可能性うんぬんはひとまず留保するとしても、展開次第では強豪国とも好勝負できるポテンシャルは秘めている。大多数のチームが格上である以上、少ない人数・タッチ数で低い位置から大きくサイドに展開し、その間、中央を梶山らボランチ陣がケア、ショートカウンターを狙う、という現実的でリスクを犯さない戦術を採るのはほぼ間違いない。場合によっては、ボランチを三枚並べて1トップというような布陣もあるかもしれない。そうなると、ますますサイド、特にサイドバックの選手の攻撃参加が鍵を握ることになる。
 メンタルに問題はないとみる。トゥーロンにおいて、イタリアやコートジボアールといった圧倒的な戦力をもつチームに対して粘り強く戦い、内容はともかく五分の結果を引き出したように、「ますらお」たちは精神的にかなり結束の強いチームになっている。ボロボロに負けることはない、と楽観している。
 落選した選手の中では、トゥーロンで世界的に評価を上げたDFの青山や変わった間のとり方が持ち味のエスクデロを見たかった。もっとも、18人という限られた枠での選出であり、この2人はタレントとしては面白くとも、ユーティリティ性やプレーの幅の狭さが落選理由となったのだろう。前者の代わりにはトゥーロンでブレイクした森重がいるし、後者のシートには、裏を狙うスピードやポジショニングで勝負する、より戦術的に適合性の高い森本が収まった。
 海外から注目を浴びるとすれば、安田、内田、香川、長友といったA代表経験済みのサイドの選手ではないか、と勝手に踏んでいる。誰かひとりくらい海外に行ってほしい。