家守

 今日はバービーの誕生日なのだそうだ。ちなみにうちの嫁は、バービー派でもリカちゃん派でもなく、いずみちゃん派だったらしい。誰? 女の子にとって人形は、理想の女性像を育むための道具だと思うのだが、理想化の対象がバッタものでは情操面に障害が出ても文句は言えまい。安物買いの銭失い。
 ところで男の子の場合、ウルトラマンやキンケシや戦隊もののロボットが人形役を果たすはず。しかし、これが女の子の場合の人形と同じように考えていいものか、どうも疑わしい。なんせ、私の持っていたそれらはほとんど五体満足ではなかったから。空想でおもちゃに魂を吹き込み戦わせているうちにだんだん拍車がかかり、小さな瑕から腕がもげたり足がもげたり、とたちまち玩具箱は野戦病院の様相を呈する。そのうち、首のないキンニクマンはキンニクマン足りえるのか、という哲学的難問が、幼子の脳内を支配する。
 男の子の遊びってなんなんだろう。「フォルト/ダー」(フロイト)の延長にしても、失われた欠損部位は戻ってこないし。

 

家守 (光文社文庫)

家守 (光文社文庫)

 家・イエにまつわる連作短編。大枠の事件の中に事件を設定したり、事件の真相を時間差で刷新したり。トリックはまあまあの凝り具合に止まるが、雰囲気づくりや動機の設計がさすがに上手い。
 「人形師の家で」はピグマリオン神話+ヘンゼルとグレーテル。もうひとつ、両者のむすびつきが弱い。
 「埴生の宿」は老人の痴呆に対するショック療法としてレンタル家族を利用するが、肝心のバイトくんが疑心暗鬼に陥り、という凝った構成。『グラスホッパー』を思い出した。
 「鄙」は、周囲から隔絶した田舎における密室殺人の話だが、主眼は無医村における医師の確保という動機面。こういうど田舎においては、医者の実質的な技術うんぬんよりも、コミュニティにおける寄り合い的な機能のほうが大事。隠されていた医師の来歴を知りながら、それでも彼を匿う村民の行動がそれを物語っている。ファンタジーを壊されたがゆえに起こる殺人、というのはジジェクが論じてなかったか。
 「転居先不明」は、一家鏖殺が起こったとされる家に転居してきた夫婦の物語。事件の詳細を伝えるドキュメント記事を、夫が妻を騙す話が包む。どうして妻は誰かに見られている、と感じるのか、という謎に対する解決の提示が鮮やか。結末は綾辻ホラーのような感じ。
 MVPは表題作「家守」。密室殺人の推理と妻が区画整理にひとり反対していた理由。物質的な家と幻影としてのイエの対比もおもしろいし、探偵役を務めるふたりの刑事のやりとりもおもしろいし、どんでん返しもいい。しかし、これはトリックでしょう、なんといっても。ネタばれ。なんせ、タイマー付掃除機で室内の空気を吸引、室内を酸欠状態にして就寝中の妻を殺す、って前代未聞。このバカミスぎりぎりの感じがとてもいい。