シャングリ・ラ

 暖かくなったかと思えばまた冬に逆戻り。そういうわけで、今のうちにもつ鍋。鍋納めの儀式を粛々と。といっても、今や芸人なのかアスリートなのかよくわからなくなっている息子を、裏口入学させようとしたあの人とは何の関係もない。
 

シャングリ・ラ 上 (角川文庫)

シャングリ・ラ 上 (角川文庫)

シャングリ・ラ 下 (角川文庫)

シャングリ・ラ 下 (角川文庫)

 ライトノベル界のスーパーヘヴィ級みたいな小説。
 地球温暖化がのっぴきならないところまで進行して、炭素排出には重税が課される近未来。地上を捨てたエリートたちは、バベルの塔のような巨塔を約束の地とし、新たなパラダイムとなった炭素経済で一攫千金を目論む。選民から零れ落ちた難民たちは、文明の残骸を蚕食する森の脅威に怯えながらも地上に根城を構え、レジスタンス活動に忙しい。
 というような黙示録的世界観を背景に展開されるのは、典型的な貴種流離譚襤褸を纏った「皇女」さまが上へ下への大騒ぎ。徹底的な脱中心化、相対化の果てに残るのは古式ゆかしい万世一系神話だが、騒擾の果て、直線的な継起に根源的な断絶を認めるラストに、手垢のついた鋳型に安寧を求めるような短絡はなく、新しい神話と歴史を紡ぐ意志に満ちている。
 というような御託は本書の前ではほとんど意味を持たない。超人的なキャラクターが次から次に登場し、息つく暇もない。ウサイン・ボルトの記録を高校生の時分に塗り替えそうになってしまうほどの身体能力と、膠原病のワクチンをあっという間につくってしまう知力を併せ持つ涼子。嘘をついた人間の内臓をひっくり返して殺してしまう美邦。涼子に匹敵する身体能力をもつニューハーフ・モモコ。神官たちに竹やりでブスブスと刺されながら現世への執着を保ち、百足を食らうアトラス公社のCEO・水蛭子。戦車を寸断するほどの巨大ブーメランを操る主人公・國子が霞んで見えるほどの強烈なラインナップ。個人的には前半部のお笑いを一手に引き受けるミーコを推す。
 漫画化・アニメ化されるらしいが、アダプテーション向きだと思う。