先端で、さすわさすわそらさすわ

 歯医者。歯周病の治療。
 針状の医療器具で歯茎をがんがんに刺される。
 痛かったら左手を上げてください、と女王様が事前におっしゃられていたので、仰せのとおりに左手を上げたら、痛みに弱いんですか、と鞭が飛ぶ。なにくそ、久しぶりに男気を総動員して、平気の平左を貫く。心裡は鍼のむしろ、この世の地獄だ。
 痛かったら左手を上げてください、というのは、修辞疑問のように含みを読み取らないといけない歯科専用構文なのだろう。痛かったら左手を上げてください(男なら上げねえだろうけどな)、とか、痛かったら左手を上げてください(小学生のお子さんでも上げたの見たことないけどね)、とか、痛かったら左手を上げてください(ママによーく見えるようにね)、とか。なにおう。
 さらに、痛みに耐えられない人には麻酔したりもしますけど、麻酔注射の針のほうが痛いですよ、なんて追い討ちをかけながら不敵に口角を緩ませて微笑む。そうまで言われたら耐えないわけにはいかんだろう。うむ、歯科大学には、歯科心理学みたいな授業もあるんじゃなかろうか。
 なんにしろ、意識的にオン/オフできるデジタルな痛覚は持ち合わせていないので、痛いものは痛い。
 調教、いや治療は2ヶ月続く。眠れる獅子が起きないことを祈る。