十把一絡げ 

 CLノックアウトラウンド一回戦、ミランvsアーセナルを観る。現役選手にしてすでに銅像が立つ「生ける伝説」アンリの威光も曇天を晴らすには至らず、濡れたパンツを履いたままプレーしているようなアーセナルの気持ち悪い11人を見守ること90分、湿った溜息ひとつ、海馬の尻を百叩き、ひひーん、と試合の記憶をデリートして、掃除を始める。
 まずは新聞を束ねる。それから本棚に突き刺さっている学会関係の紙、紙紙紙、そして紙を仕分けする。ニューズレターに、伝票に、封筒に、学会誌に、プロシーディングに、ハンドアウトに、住所録。学会誌を残して床に積んで軒並みビニールの紐で括っていく。やればできる。たちまち小山がいくつかできる。
 嫁さんよ、後生だから、学会誌をとっとと研究室へ持って行っておくれ。
 本棚のセクションがみっつほど空いた。段ボールに詰まったままの本たちを本棚に詰めていく。本あってこその本棚だとつくづく思う。
 紙は捨てるとして、大量のファイルもさっさと研究室へ持って行っておくれ。床に平積みの本たちが夜泣きしてるよ。



猟奇博物館へようこそ ─ 西洋近代知の暗部をめぐる旅

猟奇博物館へようこそ ─ 西洋近代知の暗部をめぐる旅

 副題では「暗部」となっているけど、実はそうでもない。今でこそ「暗い」扱いになってしまっているが、かつてはむしろ表舞台にしゃしゃりでているものだった。「グロテスク」がローマの地下から発見されて装飾文化に華を添えたように、美学も医学もキワモノも見世物も、全部紙一重のもので、お互いがお互いを食みあっている。ヴァニタスにしろ、トランジにしろ、ね。その咬合のほどをざざっと見てしまおうというのが本書。解剖学がある種の美学を創り出してしまうあたりが本書のハイライトだろうか。とてもおもしろい。
 表面、平面や皮膚についての書物を渉猟しては泳ぎの下手な考えを泳がせている私としては、聖遺物の収奪・剥奪(聖人の解体・分配を含む)・蒐集、それからデスマスクの件りが興味深い。
 なんでもかんでもとっちらかっていた時代はほんとに魅力的。デカルトの頭蓋骨とかカタコンベはとりあえずのところ見る時間あるかな。ベンサムの抜け殻がロンドン大学にあるのかー。などなど。
 平山夢明が好きな私にしては少し刺激が足りないぐらいだったけども、*1ヨーロッパの<ゲテモノ>文化について知りたければコンパクトでいい一冊だと思う。
 近代化がいかに視覚の透徹を追求するものだったか、(数え切れないぐらいだが)改めて思う。と同時に、視覚文化など「暗部」では決してなく、その他の感覚・感性こそが近代の「暗部」であり、深淵だった、という推理を勝手に始める。深淵なき「平凡」な時代について考える。 

*1:ライモンド・ディ・サングロの海綿状人体オブジェはすんごい。それからズンボの『死の劇場』の文学的影響関係も興味深いところ。