道化師の蝶

文藝春秋 2012年 03月号 [雑誌]

文藝春秋 2012年 03月号 [雑誌]

 二宮清純プロ野球選手としてのジャイアント馬場はどうだったのかを検証する記事がおもしろい。
 そして芥川賞受賞作二篇を収録。
 田中慎弥の受賞作は最初の十行ぐらいで読むのをやめた。わたしの好き嫌いの問題だ。宮本輝のほうがこういうのは上手だろうし、わたしは堪え性がないし飽きっぽいのでこういうのはもういいや。
 円城塔の受賞は驚きだった。あの世の伊藤計劃も喜んでいることだろう。
 「道化師の蝶」には、メタフィクションだの前衛だの言語実験だの、さらにはフィクションじゃないとか小説になっていない、といった毀誉褒貶のティッシュと石が投げつけられている。「道化師」の講評に至っては、「シュレジンガーの猫」を持ち出して強力に円城を推した日本語の達人川上弘美のものと、もともとたくさんの読書を滋養にしている小川洋子のものを除けば、読むべきところはほとんどない。いったいこの人たちはどんな小説を、どのように読んできたんだろうか、と疑問に思う。「メタフィクション」をwikipediaで調べた、とのたまう高樹のぶ子には、血が上る間もなくさっと引いてしまう。
 円城の受賞コメントが自作に対する的確かつ冷静な批評として響くのはまったくの皮肉であり、そら恐ろしくもある。
 いわく、「リアリズム小説」。
 これは文学じゃない、とか、リアル感に欠ける、とか、文学は心の栄養、とか日常的にほざいている輩は、円城の処女作がハヤカワから出版されているという意味を噛み締めて、咀嚼して、それから言葉を吐くがいい。
Self-Reference ENGINE (ハヤカワ文庫JA)

Self-Reference ENGINE (ハヤカワ文庫JA)