リングス再興の夢

U.W.F.戦史3

U.W.F.戦史3

 完結編。
 第二次UWFの末期からU系三団体鼎立までの顛末を具に描いている。
 特に第二次UWFが東京ドームに6万人もの観衆を集めるほどの隆盛の最中、内紛が起こり、崩壊してしまっていく様を綿密に跡付けている。
 わずかな人間関係の歪み、互いにしっかりした言質をとらないままの団体運営、お金への執着、生活の不安、プロレス/格闘技の哲学の違い。要因は複合的だ。けれども最も大きかったのは、第一次UWFの佐山のように、前田が独自に路線を設定し、ろくに話しあいもしないまま最後まで突っ走った点だろう。それに豊富な読書量に支えられた前田の哲学はあまりに先進的で、実質、新日本の前座レスラーだった面々を軸に総合格闘技への道をひた走る計画には無理があっただろう。船木を除けば、高田も山崎もその器ではなかったということだ。
 前田がオランダのコネクションを頼りに独りでリングスを立ち上げるという流れは、彼の苦労を思えば安易なことは言えないが、結果的に正しい成り行きだったと思う。リングスはPRIDEとのいざこざもあり不幸な最期を迎えるが、前田が世界中に巡らせた格闘技のネットワーク、特にオランダとロシアのコネクションは、総合格闘技を日本に根付かせる上で大きな役割を果たした。
 前田日明という男の凄みは、リングの上での圧倒的な存在感もさることながら、実のところプロモーターとしての手腕によるところが大きいのかもしれない。今着実に裾野を広げている不良たちの祭典「ジ・アウトサイダー」の成功にその凄みのほどは体現されている。
 前田日明はまだリングス再興を諦めてはいない。PRIDEもK−1も消滅した今、レスラー仲間にバタイユを薦めるようなレスラーとしては規格外の知性、そしてなにより雄弁な実績が作ったカリスマ性が日本の格闘技の未来を切り開くに違いない。
 そういえば最近、菊池成孔前田日明は対談していたような。最近、どうなんだろう。



新日本プロレス伝説「完全解明」 (宝島SUGOI文庫 A み 3-1)

新日本プロレス伝説「完全解明」 (宝島SUGOI文庫 A み 3-1)

 ミスター高橋によれば、アンドレ―前田のセメントマッチは猪木の陰謀ではなく、アンドレがプロレスの美学を身を以って教えたのだというが、それはどうだろう。戦意喪失した大巨人が"It's not my business"と前田に言ったというのは有名な話だ。アメリカ時代、アンドレと前田が昵懇の仲にあったことを勘案すれば、プロレスの舞台裏を暴露してなお猪木の肩をもつミスター高橋の話は信用できたものではない。