抹消による自己批評

――しかし人間だれしも欠点は持っているもの! しかもこの場合ヨリックの欠点をさらにいちだんと小さなものにし、ほとんど拭い去ってしまっている一事というのは、問題の一句はすこしのちになって(ということはインクの色合いがほんのちょっとちがうのでわかるのですが)、そのどまん中にまっすぐ棒を一本引いて抹殺してあるのです。こんな風にです。
  でかしたり
まるで自分が一度抱いた意見を、後になって取り消した、あるいは恥じた、という様子なのです。
 自身の説教に対するこのような短評はこの場合だけを唯一の例外として、あとはみんな説教をとじた第一枚目の紙、つまり表紙の役をつとめている紙に書いてあるのでした。(『トリストラム・シャンディ』 中』 322-23)

 痕跡を創り出す自己批評。書き手の自意識の表出。読者/批評家の先取りであると同時に、読むことの先取り。読者の存在をエクリチュールに書き込む。
 あるいは抹消によるハイライト。