速度の近代

 

 ところで、満腹で書いている時の私は、――生あるかぎり断食の状態でものを書くなどということはもう二度とあるまいという気持でペンを走らせるのです。――言いかえれば、この世の心配苦労もあらゆる恐怖も、すべて忘れて書くのです。――身に持っている傷跡の数など数えませんし――あるいは暗い路地や片隅などを通りかかっている時にグサリとやられるのではないかなどという先まわりの心配も全然空想に浮かび上がりません。――一言でいうならば、ペンが勝手に自分の道を進むので、私は胃袋のみか心の中までも一杯という状態でどんどん先に書きすすむのです。(『トリストラム・シャンディ 中』 335-36)

脱線より、進む速度ではないか。回り道しても速度だけは変わらない。
エクリチュールと機械。たとえば下巻の冒頭。