血管、血流

母の血管には一年十二カ月の全部を通じて、節度を心得た血の流れが整然と流れていましたし、それは昼と夜とにかかわりなく、いざというような時でもまったく同じでした。あるいは信心深い人の手に成る論文に見られる初心者的熱烈さから、体液の中にすこしでも過度の熱をたぎらせるなどということも、母の場合には絶えてないことでした。(『トリストラム・シャンディ 下巻』 240)

 おそらくはスターンに冒涜の罪を着せようする批判者に対するあてこすりだろうが、血の流れかた、さらには血の温度に対するこだわりが傑出している。19世紀的血の相続の問題と前近代的体液論(上巻の始めの方に顕著)とのあいだぐらいにあると考えていいだろうか。